OMOTEOコラム

成長をやめない男は、「極地」へと向かう。

OMOTEO オモテオ

もしあなたが、人生の半ばを迎えて軽い焦燥感を持っていたり、逆にあらかたのことを達成して
退屈な気分になっていたら、必要最小限の荷物をまとめて、厚手のダウンジャケットを羽織い、
北行きの飛行機に飛び乗ることをおすすめする。
できれば、とびっきりの北。なかなかこの先はないんじゃないか、というくらいの北である。

北緯69度。北極圏の街、イルリサット。
グリーンランド語で「氷塊」を意味する、まさしく、雪と氷の街である。
空は、透き通っている。その先に宇宙を感じるといった方がいいかもしれない。
人間の暮らしを覆う「膜」みたいなものが、すべて取り払われて、
裸で放り出されたような心地よさと不安を感じる。
「音」もまた、雪と氷河に吸い取られる。騒音の相対としての静寂ではなく、
それは何か絶対的なものなのだ。向こうから老人がやってきて、「そもそもこの世界には
音などなかったのですよ。」と言われれば、あぁそうですか、と納得してしまいそうな。
確かなものは、雪を踏みしめる己の足音と、吐息。
自分という存在が、やたらくっきりと浮かび上がる。

遠くから、かすかに遠吠えが聞こえている。

ここイルリサットの名物は、犬ぞりである。
使用するのは、グリーンランド・ドッグという5000年以上前から存在する古代犬種。
マイナス50度まで耐えるという、恐ろしくタフな奴らだ。
こちらをじっと見つめる目に、甘えや媚びといったものは見当たらない。

このグリーンランド・ドッグを、ひとつのソリに約15頭つなぐ。
先住民族のカラーリット(本当に日本人にそっくりである)が、長いムチと
独特のかけ声で巧みに操る。ユイッ、ユイッ、ギッ・・・
登り坂でなければ、それなりのスピードが出る。あざらしの毛皮の防寒具を身につけているものの、
日が陰ってくれば、体感温度は著しく下がる。乾燥した寒風が肌を刺す。

辺りは、進めども進めども人工物が何ひとつない雪の大地。
起伏のむこうには、広大な氷河が顔を見せている。
薄弱な意志や、傲慢な心や、迷いの一切を、受けつけてはくれない場所。
垂れ込めた厚い雲が、さらに空気を冷やし、孤独を強調し、不安をかりたてる。
15頭のグリーンランド・ドッグと、カラーリットにだけは、自らの進むべき道がはっきりと見えている。
経験といってしまえばそれまでだが、もっと純粋な原始的な危機感が彼らにはあるのだ。
それはおそらく、すぐそばに息を潜める「死」だろう。

プリミティブなその感覚に、都市の人々は、綺麗に丁寧にフタをしてしまった。
だから、うろたえるのである。気づかぬふりをしてきたものが、突然目の前に現れて。
そして、そこに泰然と向き合っている犬と人間を見て。

4時間の犬ぞりから帰還したその夜、空にはオーロラが広がった。
すぅーっと薄い光が広がったかと思うと、いつの間にか、空一面にくっきりと
カーテンが引かれている。それが不規則な「うねり」を繰り返し、黄緑色に怪しく光る。
エドヴァルド・ムンクの絵画「叫び」を思い出す。
そういえば、ムンクの「叫び」は、描かれた人間が叫んでいるのではなく、
自然の叫びを描いたものだった。 
真下で見るオーロラは、美しさよりも、心を狂わせるような、恐ろしさを持っていた。
太古の昔から我々を見下ろす「何か」が、笑っているようだった。

極北の地は、極地という場所は、都市の男にある教訓を与えてくれる。
「まだまだちっぽけだ。」
「もっと生きろ。」

バスルームで冷えきった体を暖める。寒気にさらされた肌をいたわる。
自分と向き合い、手入れをしながら実感していく。
「自分はここにいる。確実に生きている。」
そう思うと、急に腹が減ってくるのだった。
ホテルの重いドアを開け、夜の闇を見る。
頭の中は、クリアだ。明日を迎えるのが楽しみになってきた。

さぁ、面を上げて、男はどこへゆく。

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