OMOTEOコラム

ドキュメントノベル「俺の肌」vol.4

a0002_000726_m
 
堀内の店には、レコードが1000枚ほど置いてある。音楽好きが高じて開いたロックバーだ。
オープン前にはいつも、その日の気分に合わせた1枚を選びフルボリュームで流す。
その日最初の客が来るまで、爆音に身をゆだねつつ、ぼんやりと一杯やる時間が堀内は好きだった。
独り大音量でレコードを聴きながら、堀内はここ数週間の出来事を反芻していた。
 
この店の常連客は音楽好きの40代が多く、店で出る話題もとうぜん音楽に絡んだものが多い。
たとえばストーンズ派とビートルズ派に分かれてのディベート大会や、
古今東西の名曲タイトルでしりとりをするなどといった高度な遊びをしつつ、酒を飲むのだ。
「音楽を肴に酒を飲むバー」だと堀内は自負していたし、そんな店の有り様を自分でも気に入っていた。
ところが最近では、常連たちはみな盛んに「肌」の話ばかりしているのだ。
 
40代の男同士で、「おい、ちょっと俺の頬っぺた、さわってみろよ。だいぶスベスベになっただろ?」とか、
「お前えらくテカってるな。俺のオデコなんてほら、こんなにサラサラだぞ」などとやっているのだ。
 
 
いま、堀内の店では「男の肌ケア」が流行している。ある日を境に、
常連たちがこぞってスキンケア製品を購入し、自らの肌に磨きをかけ始めたのだ。
ここ最近は毎晩のように、日々のケアの成果発表と互いの肌の品評会が繰り広げられている。
いい歳のオトコたちが「肌ケア」の話題を肴に、バーボンやらスコッチやらを傾けているのだ。
 
「ま、これはこれでなかなか面白い風景だ」と堀内は思っていた。
レコードを聴きながら、Sという常連の姿を思い浮かべ、堀内は独りニヤニヤと思い出し笑いをした。
常連のSは「メタリカの話を始めると朝まで止まらない」ことで有名なオトコなのだが、
昨夜は「脂性を改善する洗顔方法」についてたっぷり3時間ほど力説していた。
居合わせた常連客も「へえ、そうやって泡立てるんすかあ!」などと感心していた。
「ククッ・・・はっはっは」
堀内は笑いながら自分用のグラスにビールを注ぎ、グイとあおった。
そして「そう言えばアレがきっかけだったよな」と、安田という客の姿を思い起こした。
 
 
数週間前のある夜、安田という無口なオトコが、性悪の美女をやり込めた時のことだ。
やり込めたと言っても、口ではなく、「肌」でだ。
安田は以前その美女に「アンタの肌はひどい。仕事の出来ないオトコの肌だ」などと散々に言われており、
それを見返すために毎日入念にスキンケアをして、見違えるような肌を手に入れたのだ。
その肌をこの店で性悪の美女に見せつけ、「ぎゃふん」と言わせていた。痛快なシーンだった。
 
「あれを見て、みんなスキンケアに熱中し始めたんだよなあ」と、堀内はまた独りニヤニヤした。
前述した常連のSもその出来事をリアルタイムで見ており、
さっそく安田に「どんな製品でスキンケアしたの?」などとたずねていた。
常連のSもまた、なんとなく肌の悩みを抱えていたのだ。
なんでも「肌をキレイにすれば、「オヤジの」イメージを払拭できる」と考えたらしい。
昨夜も「スキンケアはロックだ!」とか言いながら飲んでいた。笑える。でもある種の真理かも。
 
堀内はチラリと時計を眺め、「今夜もスキンケアの話題で盛り上がるんだろうな、ヤツら」
と呟きながら店の外看板を表に出しに行った。
常連たちの話題に店主が乗らないわけにはいかないから、ここ数日で堀内もスキンケアの知識をずいぶんと仕入れた。
夜はそいつを得意気に披露してやろう、と看板を出しながら思った。
 
「おい知ってるか? そうやってオシボリで顔を拭くのは脂性の一因になるんだぞ」とか、
「○○ちゃん、ずいぶん肌が乾燥してるね。放っておくとシワが増えるよ?」とか、
「オトコが老けるいちばんの要因って知ってる? 実は紫外線らしいんだよね…」とか。
 
さらに話のネタに、話題のスキンケア製品もいくつか購入しておいた。
こいつも今夜、常連たちに見せてやろうと堀内は思った。
とくにこの保湿やアフターシェーブやUVケアが1本で出来るヤツ、あいつら飛びつくだろうなぁ…
 
と、また独りニヤついているところへ、最初の客がやってきた。
ミックジャガーが「俺たちは止まらないぜ」と歌っていた。

乾燥と紫外線対策をオールインワンに、プレミアム シンプルケアエッセンスUV 初回2,100円 税抜乾燥と紫外線対策をオールインワンに、プレミアム シンプルケアエッセンスUV 初回2,100円 税抜